ESG
企業がESGに取り組むメリット




SDGsの機運醸成に伴い、持続可能な企業経営に求められる「ESG」も注目を集めています。もともとは投資の観点から生まれたESGですが、近年では投資に限定せず企業経営における重要な指標として認識されています。
ESGの概念が生まれた歴史的背景やSDGsとの関連性、ESGと混同されやすい「CSR」との違い、企業がESGに取り組むメリットなどについて解説します。
ESGとは
ESGとは「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を合わせた言葉です。SDGsやサステナビリティの実現における企業の持つ価値や役割にフォーカスした概念として、近年注目が高まっています。
ESGは人権問題や環境問題など社会全体が抱える課題を内包しています。そのため企業がESGに取り組むことは社会課題の解決に寄与するサービスを提供していると評価され、企業価値の向上や経営基盤の強化につながると考えられています。
また「利益追求だけを行う企業は将来的に淘汰される」という考えのもと、ESGに取り組むことで企業の持続可能性を高めていくことも期待されます。
ESGの歴史
ESGはもともと、投資家が投資先の企業を選定する際に「環境」「社会」「ガバナンス」という非財務価値の要素を考慮する「ESG投資」から生まれた概念です。ESG投資の起源は1920年代のアメリカにあるとされています。当時のアメリカでは投資先の選定にあたり、財務的側面だけでなくキリスト教の倫理観に基づく社会的責任を果たしているかを重視する考えが広まっていました。これがSRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)という言葉で知られる投資手法です。

SRIは、当初は宗教的倫理観に基づくモラル重視の投資手法でした。しかし1960年代以降、環境破壊や開発途上国の貧困といった社会問題に対する世界的な意識が高まるにつれ、社会問題への対応に優れた企業を重視する投資手法に変化していきます。
その流れを受けて国連により提唱されたのが、2006年の「責任投資原則」(PRI: Principles for Responsible Investment)です。そこで初めて「ESG」の概念が明確化され、投資家がESGの観点を考慮して投資先企業を選定すべきであるという世界共通のガイドラインが示されました。当時のアナン国連事務総長が世界の大手投資家に対して呼びかけたことで、ESG投資は本格的に普及していきます。

日本では2014年に金融庁が「『責任ある機関投資家』の諸原則」を発表。2015年には世界最大規模の年金積立金を運用するGPIFがPRI署名を行いました。これをきっかけに日本でもESG投資が拡大しています。
GPIFによる「ESG投資」の考え方


SDGsとESGの関係
2015年に国連で採択されたSDGsでは、持続可能な社会の実現に向けて17のゴールと169のターゲットが設定されています。SDGsはあらゆる社会問題の解決を目指すための世界共通の行動目標であり、ESGで示される課題とも密接に関係しています。
しかしSDGsが「サステナビリティな社会の実現」に向けて策定されたものであるのに対し、ESGは投資の評価指標を起源としていることからもわかる通り、あくまで企業と投資家を主体とする考え方です。ESGを重視した企業活動・投資活動をそれぞれの立場で行うことが、結果としてSDGsが包括する目標の一部に貢献する、と捉えることができるでしょう。
ESGとCSRの違い
ESGと同じく、企業の利益追求だけでなく社会貢献を重要視する企業のあり方を示す言葉に「CSR」があります。CSRはcorporate social responsibilityの略で、「企業が果たすべき社会的責任」を意味します。
ESGとCSRは同一視されることも少なくありません。しかしCSRは「企業活動によって得られた利益の一部を社会貢献活動等で還元することで社会的責任を果たす」という考え方であり、企業経営からは切り離されているのが特徴です。一方でESGは投資家からの重要な評価項目であり、資金調達など企業経営に直結する活動です。その意味で、ESGとCSRは根本から異なるものであると言えます。
ESG経営の一例と、企業がESG経営に取り組むメリット
ここまで述べてきた通り、ESGの本質は投資家から見た企業の評価指標です。しかしSDGsの浸透も相まって、近年では投資に限定せず、企業がESGに配慮して経営を行う「ESG経営」の重要性が認識されています。ESG経営の一例としては以下のようなものが挙げられます。
環境
産業廃棄物の削減や温室効果ガスの排出抑制など、生産・サービス提供過程における環境への配慮
社会
ワークライフバランスの実現や女性の活躍促進など、多様性に配慮した労働環境の実現
ガバナンス
社内外への情報開示による経営の透明性の確保
ESG経営によって投資家から注目されるという一義的な目的に加え、顧客からのイメージアップなど、対外的な企業のブランド力の向上が期待できます。
それによって資金調達のハードルが下がる、優秀な人材が獲得できるといったメリットが生じます。
ESGに取り組むことで投資だけでなく多角的に企業の可能性を広げ、結果的に企業の長期的な発展につなげていくことができるといえるでしょう。